子供の頃、兄貴と兄貴の友達Kちゃん♂と3人でよく遊んでいた。
夏休みに入り、毎朝のラジオ体操のスタンプを集めることに情熱を燃やしていたある日、ラジオ体操後にKちゃんから「カブトムシを取りに行こう」と誘われた。
昨日、林の木に蜂蜜を塗ってきたのだと云う。
今はすっかり整備されて公園になっているのだけれど、私が子供の頃は近所の川に出るためには、林を抜けなければならなかった。
林には木苺や山モモ、アケビや胡桃にシイの実など、季節の楽しみがたくさんあった。
だからリスやウサギ、キツネなど野生動物の目撃情報も聞いていた。
そんな林にカブトムシがいない訳がない。ましてや蜂蜜が塗りつけてあるのだ。
私達はワクワクした。
朝の林は人気が無く、私達しかいない感じがしたので、次第に話し声も小さくなる。
クスクスと小さな期待と歓声をあげながら、Kちゃんの案内で林の中を進んだ。
「あ、これこれ!」
私達は遂に、Kちゃんの木を見つけた。
ベッタリと蜂蜜が塗りつけてある幹には、数匹のカブトムシとクワガタがいた。
Kちゃんが「シー」っと口元に人差し指をたてるので、私達は忍び足で、その木に近づいた。
カブトムシは目の前だ。
嬉々としてカブトムシに手を伸ばしかけたその時、ガサガサと音がした。
ビックリして見回すと、前方の草むらが動いている。
ウサギやキツネの大きさではない。もっと大きい。
私達はなるべく音をたてないように、草むらを凝視しながら後退りした。
突然、草むらから大きな何かが飛び出した。
「うわぁ!」私達は大声を上げて逃げ出した。
すぐに遠くで大人の声がした。
草むらから出てきたのは2匹のポインター。
遠くの声は飼い主だと思う。
もしも私達が叫ばなければ。
もしも私達の声に飼い主が気づかなければ。
猟犬に狩られていたかも知れない、怖い話でした。